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那覇地方裁判所 昭和58年(わ)143号 決定 1983年9月29日

被告人 N・S(昭四一・二・一生)

主文

本件を那覇家庭裁判所に移送する。

理由

本件公訴事実の要旨は、被告人は、(一)昭和五七年四月一五日午前二時五分ころ、沖縄県糸満市○○××番地の×先道路において、業務として自動二輪車を運行中、同所は右に湾曲した道路で、かつ、最高速度が四〇キロメートル毎時と指定されているのに、時速約一〇〇キロメートル毎時の高速度で漫然と進行した過失により、的確なハンドル操作をなし得ず、自車を道路左脇のコンクリート欄干に激突転倒させ、よつて自車後部座席に同乗中のE(当時一六歳)を頭部打撲に基づく脳損傷により即死させた。(二)公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五八年一月三一日午後一一時ころ、同市字○△×××番地の×先道路において、原動機付自転車を運転した。ということであつて、関係各証拠によれば、右の各事実が認定できるところ、右(一)の所為は、その過失の態様が危険度の高い悪質なもので、かつ、その結果も誠に重大な事犯であり、しかも被告人は、本件各犯行の数か月以前、運転免許を有していない頃から、各犯行に使用した自動二輪車又は原動機付自転車を購入し、各犯行に至るまでの間それぞれ無免許運転をくり返していて、遵法精神の欠如が顕著であることが窺えることなどを併せ考えると、被告人の本件各犯行についての刑責はかなり重いと云わざるを得ない。

従つて、本件(一)の犯行の被害者が被告人の友人でかつ好意同乗者であり、被告人はその後反省し、家族の者と協力して被害者側に対し、金一〇〇万円の見舞金を支払つているほか、自動車損害賠償責任保険から二、〇〇〇万円を支払う予定になつており、被害者の遺族からも被告人に対する宥恕の意思が表明されていることなど、被告人にとつて有利な諸事情をすべて考慮して見ても、本件の罪質、犯情、結果が重大であることに鑑みると、被告人に対しては、一応刑事処分による不定期刑で処断するのが相当ではないかと考えられない訳ではない。

しかし、被告人は、本件各犯行時一六歳で、現在も一七歳八月の若年であり、これまで本件以外には非行歴がなく、保護処分を受けたことなども全くないこと、その他被告人の経歴、資質、境遇など諸般の事情を考慮した場合、今直ちに右の刑事処分による不定期刑で処断することには躊躇せざるを得ない。

結局、被告人に対しては保護処分による矯正教育を施して社会復帰させることが相当であると思料するので、少年法五五条を適用して、本件を那覇家庭裁判所に移送することとする。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 西江幸和)

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